いま押さえておきたい論点と実務への影響

温室効果ガス(GHG)排出量の算定・報告における国際的な基準であるGHG プロトコルでは、現在、企業向け基準の見直しが進められています。
今回の見直しは、単なる定義の修正や説明の追加にとどまるものではありません。企業がどの排出を自社の責任として捉えるのか、どのような方法で排出量を算定するのか、そしてその結果をどこまで透明に説明するのかという、排出量管理の根幹に関わる議論が進んでいます。
特に、企業の排出管理の基礎となるScope1とScope2は、多くの企業実務に影響し得る重要なテーマです。なお、現時点では改定作業は継続中であり、既存の基準が引き続き有効です。

こうした動きが注目される背景には、ここ数年で企業を取り巻く環境が大きく変わったことがあります。ネットゼロ目標の拡大、気候関連情報開示の制度化、再生可能エネルギー調達手法の多様化などにより、これまでの算定ルールだけでは実態を十分に表しきれないのではないか、という問題意識が強まってきました。
GHG プロトコル側も、Corporate Standard、Scope 2 Guidance、Scope 3 Standardなどを対象に更新プロセスを進めており、今後の企業報告のあり方を左右する見直しになる可能性があります。

Scope1とScope2とは

まず、Scope1とは、企業が所有または管理する設備や車両などから直接発生する排出を指します。たとえば、工場のボイラーでの燃料燃焼、自社車両のガソリンや軽油の使用、製造工程から生じる排出などがこれに当たります。いわば、企業活動の現場で直接発生する排出がScope1です。

一方、Scope2は、企業が外部から購入して使用する電気、蒸気、熱、冷却に伴う間接排出です。排出そのものは発電所や熱供給設備などで生じますが、そのエネルギーを利用する企業の活動に伴うものとして整理されます。オフィスや工場で使用する電力に伴う排出が、最も代表的な例といえるでしょう。

現在のScope 2 Guidanceでは、Scope2の算定にあたり、ロケーション基準とマーケット基準という2つの考え方が採用されています。
ロケーション基準は、電力を使用する地域や電力系統の平均的な排出係数を用いて算定する方法です。これに対してマーケット基準は、企業が契約を通じて選択した電力や環境価値を反映する方法であり、再生可能エネルギー証書や電力購入契約(PPA)などが関係します。
前者が「その地域の電力事情」を表すのに対し、後者は「企業がどのような電力を選んだか」を表す方法だと理解すると分かりやすいでしょう。

なぜScope2の見直しが重要なのか

今回の改定議論の中でも、特に注目されているのがScope2です。
背景にあるのは、現行ルールの下では、証書や契約の扱いによっては、企業の実際の電力使用のタイミングや場所と切り離されたかたちで、排出量が低く見える場合があるのではないか、という問題意識です。
そのため、改定案では、より実態に近く、かつ企業間で比較しやすい算定・開示のあり方が検討されています。

たとえば、改定案では、マーケット基準で用いる契約手段について、電力の使用時間と調達時間をより細かく一致させる考え方、いわゆるアワリーマッチングが提案されています。これは、年間を通じて再エネ証書を確保しているというだけではなく、実際に電力を使った時間帯と調達した電力の時間帯が整合しているかを重視する方向性です。
ただし、ここで重要なのは、これは現時点で既に義務化されたルールではなく、あくまで改定案として議論されている事項だという点です。

あわせて、デリバラビリティという考え方も提案されています。これは、企業が調達したと主張する電力の環境価値が、実際にその需要地点に物理的・系統的につながる範囲から供給されたものとみなせるかを問う考え方です。
要するに、証書や契約の存在だけではなく、その電力がどこから来て、どこで使われたのかという現実の電力システムとの関係が、より重視される方向にあるということです。

さらに、ロケーション基準に用いる排出係数についても、地域性や時間粒度をより重視する見直しが提案されています。
残余ミックスの定義の更新や、より精緻な排出係数の利用に関する議論も進んでいます。
これらは、企業の排出量をより実態に近づけるための方向性として理解できますが、やはり現時点では最終確定前の提案段階にある点には留意が必要です。

後編ではScope1の論点と企業が今備えておきたいことを解説します。

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