生物多様性と企業活動の関係:依存と影響の構造

IPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム)は2026年、企業活動と生物多様性の関係についての報告書を公表しました。
同報告書の中心的なメッセージは、すべての企業が生物多様性に依存すると同時に影響を与えているという点にあります。生物多様性は、原材料やエネルギーといった物質的な供給に加え、水循環や気候、文化的・社会的価値に至るまで、経済活動の基盤を構成しています。
一方で、経済活動の拡大とともに、生物多様性の損失は加速しており、その影響は社会や経済、さらには企業活動そのものにリスクとして跳ね返ってきています。

生物多様性を「測る」ことで意思決定に反映していく

こうした背景のもとで、報告書は重要な転換点として、「企業は自らの生物多様性への依存と影響を測定しうる段階にある」と指摘しています。
すなわち、生物多様性はもはや外部環境として扱われるのではなく、企業の意思決定に組み込むべき対象なのです。測定を通じて依存関係や影響を可視化することで、企業はリスクと機会を把握し、戦略や行動に反映させることができます。

ポートフォリオ・企業・バリューチェーン・現場の4層アプローチ

報告書は、生物多様性を単一の手法で測定することはできず、企業の意思決定レベルに合わせた、適切な手法の選択が必要であると指摘しています。

例えば、投資ポートフォリオや企業全体のレベルでは、ライフサイクルアプローチやマクロスケールの環境経済モデルが用いられ、広範な範囲における潜在的な影響や依存関係を把握することができます。

一方で、バリューチェーンレベルでは、ライフサイクルアプローチに加えて空間分析が活用され、特定の地域やサプライヤーにおける重要な影響やリスクを特定することが可能となります。

さらに、個別の事業や現場レベルにおいては、より詳細な情報が求められます。この段階では、現地観測や参加型モニタリング、マッピングといったボトムアップ型の手法が重要となります。これらの手法では、具体的な活動が生物多様性にどのような変化をもたらしているかを高い精度で把握することができます。

また、リモートセンシングなどの技術は、こうした現地ベースの情報を補完する手段として位置づけられています。

トップダウンとボトムアップ:測定手法の統合が鍵

このように、報告書は測定手法を大きく「トップダウン型」と「ボトムアップ型」に整理しています。トップダウン型の手法は、広い地理的範囲をカバーし、企業全体やバリューチェーン全体の傾向を把握するのに適していますが、個別の活動に起因する変化を詳細に捉えることは困難です。一方で、ボトムアップ型の手法は、現場レベルでの変化を正確に把握することができますが、対象範囲が限定されるという特性を持ちます。そのため、両者を補完的に用いていく必要があります。

各手法を用いた具体例として、以下のような事例が紹介されています。

  • 場所に基づく観測
    • 衛星画像を用い、鉱山開発による森林減少の影響を把握する
    • 農地でのフィールド調査によって、鳥類・昆虫などの生物多様性を測定
  • 参加型のモニタリングおよびマッピング
    • 地域コミュニティと研究者が協働し、漁業資源マップの作成や水質汚染の調査を実施する
  • 空間分析
    • 送電線ルートと生態系データの重ね合わせにより、影響を測定する
    • 企業資産の立地と生物多様性データを組み合わせてグローバルな影響を推定する
  • ライフサイクルアプローチ
    • ライフサイクルアセスメント(LCA)と環境拡張型産業連関分析を組み合わせ、生物多様性への影響を推定する
    • LCAと空間モデリングを統合し、バイオプラスチックの生物多様性への影響を評価する
  • マクロ規模の環境・経済モデル
    • 特定地域における花粉媒介への農業依存を推定する
    • 多地域産業連関モデルを用いて、牛肉生産が絶滅危惧種に与える影響を評価する

これらの手法は、それぞれ異なる特性を持ち、測定の目的に応じて使い分ける必要があります。
報告書は、手法の適合性を評価する観点として、「網羅性(どこまで影響や依存関係をカバーできるか)」「正確性(どの程度実態を反映しているか)」「応答性(企業の行動変化による影響の変化を検出できるか)」の3つを提示しています。

生物多様性の測定は企業意思決定の基盤になる

以上を踏まえると、企業にとって生物多様性の測定は、単なる情報収集ではなく、意思決定の基盤を構築するプロセスであるといえます。生物多様性との依存関係と与える影響を理解することで、企業は自らの活動に伴うリスクを低減すると同時に、新たな事業機会を見出すことができる可能性があります。

Value Frontierによるご支援

弊社では、生物多様性に関する企業の情報開示を支援しています。ライフサイクルアセスメント(LCA)を基軸に、企業活動全体やサプライチェーンを横断した分析を行い、重要なリスク領域の特定から対応方針の検討まで一貫してサポートします。また、海外での調査・モニタリング事業の経験を活かし、現地でのモニタリングやデータ取得など、実態に即した評価と改善施策の立案が可能です。
ぜひお気軽にお問い合わせください。

参考文献:Methodological assessment of the impact and dependence of business on biodiversity and nature’s contributions to people (business and biodiversity assessment)

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