はじめに:Scope3算定は“開示対応”から“削減戦略”へ
近年、企業に求められる気候変動対応は大きく変化しています。特に2027年3月期以降、金融庁の方針としてScope3を含む気候関連情報の開示が段階的に義務化される見込みとなり、サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量を把握・管理する重要性は、急速に高まっています。
この流れの中で、環境省は2025年3月に「1次データを活用したサプライチェーン排出量算定ガイド」を公表しました。本ガイドは、従来の「平均値ベースの算定」から、削減努力が反映される1次データ活用型の算定手法への転換を明確に打ち出しています。
本記事では、この背景にある政策的な動向を整理します。
これまでのScope3算定の限界と転換の必要性
Scope3排出量は「排出量=活動量×排出原単位」という式で算定され、排出原単位はこれまでIDEAや環境省データベースなどの2次データ(業界平均値等)が広く用いられています。
この方法は算定のハードルを下げるという点では有効ですが、一方でサプライヤーごとの排出削減努力が算定結果に反映されないといった課題が指摘されています。同一製品であれば排出原単位が同一となるためです。
つまり、実際には再生可能エネルギーの導入や製造工程の改善によって排出量が低減されていても、その違いが数値に現れず、企業の脱炭素努力が評価されない状況が生じています。この場合、排出量を削減するための手段は「調達量を減らすこと」や「全く別の原料を活用すること」などに限られ、事業成長との両立が難しくなるという構造に陥ってしまいます。
このような背景から、より削減努力を反映できる算定方法への転換が求められるようになってきています。

環境省ガイドラインの位置づけと意義
環境省の本ガイドラインは、既存の「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」の別冊として位置づけられており、従来の2次データ中心の算定手法を補完しつつ、より高度な算定への移行を促す役割を担っています。
特に重要なのは、排出量算定の目的を「把握」から「削減」へと再定義している点です。
ガイドラインでは、Scope3排出量の中でも影響の大きいカテゴリについては1次データの活用を優先すべきであると明示されており、企業に対して算定の高度化を強く求めています。
環境省ガイドラインが示しているのは、単なる算定手法の変更ではなく、Scope3排出量算定の役割の転換です。すなわち、「排出量を報告するための算定」から、「排出削減を実現するための算定」への移行です。
そして、その中心にあるのが、サプライチェーン上の実態を反映する1次データの活用であるということです。
次の記事では、この1次データと2次データの違いをより具体的に整理し、実務上どのように1次データを活用した算定を進めるべきかを解説します。
・環境省 「1次データを活用したサプライチェーン排出量算定ガイド- 「削減努力が反映されるScope3排出量算定」へ -


